国交省発行の高断熱住宅設計ガイド①オーバーヒート対策
令和7年3月、国交省が編集協力となっている「省エネ性能に優れた断熱性の高い住宅の設計ガイド」が公表されました。
<参考>https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001884522.pdf
このガイドは、G2レベル以上の断熱住宅(断熱性能等級6や7)の設計ガイドとなっていて、このような断熱性能の高い住宅の普及が目的で作成されています。
ここからも、国交省がG2レベル以上の断熱性能の住宅の普及を推し進めようとしている背景が伺えます。
今回はこの中で示されている設計のガイドラインについて、重要な点を解説してきたいと思います。
オーバーヒート対策が重要!
このガイドで最初に言及されているのが、オーバーヒートの抑制についてです。
特にG3性能(断熱性能等級7)で、発生しやすいのがオーバーヒートです。
オーバーヒートが何かと言うと、高断熱化のし過ぎで、夏や冬に暑くなりすぎる現象を言います。
G2性能の住宅においても、その懸念が若干あるために等級6も同じような扱いを受けていますが、G3(等級7)に比べると遥かにその可能性は低くなります。
つまり、このガイドから察するに、等級7にしたがためにオーバーヒートが発生してクレームになるケースが増えていると言う事情が垣間見えてきます。
等級6と7の違い
等級6と7とでは、断熱性能にかなりの違いがあります。
どれだけ違うかと言うと、以下の表になります。
6地域 | |
---|---|
等級5(G1レベル) | 0.60 |
等級6(G2レベル) | 0.46 |
等級7(G3レベル) | 0.26 |
この中の数値がUa値となっていて、値が低い方が断熱性能が高いことになります。6地域というのは、大阪や東京等の多くの人が住む地域の気候を表します。
注目してほしいのが、等級5と6の数値の差(0.14)よりも等級6と7の数値の差(0.20)の方が大きい点です。
つまり、等級7というのはかなりの断熱性能で、それだけオーバーヒートのリスクが高いと言うことになります。
オーバーヒートの抑制の指針
以下の表は、ガイド内に示されている表です。
2列目に「該当する品確法等級」があり、等級6と7に着色があります。この着色がある部分に着目します。
「暖の取り方の変遷」という列に、「パッシブな断熱利用の重要性」という項目があり、等級6と7の部分を見ると、あまり重要性が高くないとされています。
これは、オーバーヒート抑制のためには、冬に太陽からの日射を窓から取り入れすぎては駄目ですよと言う意味を表します。特に等級7の断熱性能となると、それが顕著であることが分かります。

同じように「涼の取り方の変遷」の列には「日射遮蔽の重要性」と言う項目があり、これについても等級6と7では東西方向の日射遮蔽の重要性が高いことが示されています。
日射遮蔽とは、窓から入ってくる太陽からの直射日光を遮蔽することを意味します。
特に東西の窓は、夏や春、秋の朝方や夕方から直射日光が入ってくるので、これを上手く事前に防いで置く必要が出てきます。
こちらにおいても、その重要性が高いのは等級7となります。
オーバーヒート防止のための対策方法
続いて、オーバーヒート防止のための対策方法についてです。
その前に必要な情報として、知っておいて頂きたいのが窓ガラスの種類についてです。
高断熱な窓ガラスには大きく2種類ある!
窓ガラスには日射をコントロールする目的で大きく2種類のタイプがあります。
それが、【日射遮蔽型】と【日射取得型】です。
簡単に言うと、
日射遮蔽型は、太陽からの直射日光を遮蔽することに重きを置いたタイプで、
日射取得型は、太陽からの直射日光を積極的に取り入れるタイプ
となります。
窓ガラスの使い分けによるオーバーヒート対策
この2種類のガラスタイプを窓の設置の方角によって使い分けます。

こちらがその使い分け方です。大阪や東京は温暖地に属すので、真ん中の図を見ます。
東西に設置する窓は全て【日射遮蔽型】にするようにします。
これに対して、南に設置する窓は【日射取得型】とされています。
とはいえ、等級6や7の住宅ではオーバーヒート抑制のためにも南面も【日射遮蔽型】にすることがお勧めです。
窓の大きさの使い分け
窓の大きさについては、東西方向は極力小さい窓にしておくことがお勧めです。東西方向からの太陽からの日射は、外部シェードなどの別のものを利用しないと防ぐことが難しく、実際にシェードなどを設置しても「閉め忘れ」が多く、結局オーバーヒートになる恐れがあるため、事前に窓自体を小さくしておくことが大切となります。

南側は、日射の遮蔽が建築的に行いやすい方角です。
ですので、大きめの窓の設置も可能です。
また、北側の窓については、もし道路が敷地に対して北側にあり、他に窓を取る方向が無い場合は、大きめの窓にすることも一つの選択肢です。
ただし、北側に大きめめの窓を設置する場合は、向かいの家の状態などにも注意する必要があります。
窓に付属物を取り付ける方法
窓にはガラスや大きさ以外にも付属物を取り付けることによって、日射遮蔽をすることも可能です。
いろいろな付属物がありますが、基本的には窓の外側に設置できるものが理想的です。例えば、外付けブラインド、シェード、シャッター、すだれなどがその好例です。
しかし、これらは「閉め忘れ」の危険性があるため、自信がない場合は、窓のガラスの種類と大きさによる計画を事前にしておくことが重要です。

植栽を利用する方法
お手入れが大変ですが、落葉樹を利用する方法もあります。
特に、適切な落葉樹であれば冬には枯れて、太陽の直射日光を取り入れ、夏には葉っぱが沢山実って、太陽の直射日光を防いでくれます。
主に東西の窓の前に設置すると良いでしょう。
プランニングによる日射遮蔽
これは、設計者に依頼する話ですが、庇やバルコニーによる日陰、建物形状の工夫、日陰を作る用の壁(そで壁と言う)など、プランニングの工夫によって日射を遮蔽する方法があります。
まとめ
今回は、国交省が公表しているガイドを元に、オーバーヒート対策のあり方について説明をしました。
特に大きい窓を取り入れたい場合は、等級7のような断熱性能が異常に高い住宅は注意が必要です。
断熱性能は高ければ高いほどよいと言うわけでは無いので、そのことにも気をつけてください。