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2060年を踏まえた断熱計画を考える

太田(健康・高断熱住宅専門家) 太田(健康・高断熱住宅専門家)

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    前回は2024年の9月10月が過去最高に暑く、2060年に匹敵する暑さであったことをお知らせしました。

    <参考>2024年の9月は2060年並みの暑さだった!!

    2060年と言うと、これから家を建築する人にとっては想定しておくべき未来となります。
    多くの人は住宅ローンが終わりを迎えるか、返済の終盤頃に差し掛かった頃となるでしょう。

    そこで、今回は2060年の未来を見据えた計画とするためにはどうすれば良いかのお話です。
    今回も地球温暖化の予測に利用されるSSP(共有社会経済経路)と言うシナリオによって未来予測された、ゼネコンの竹中工務店が開発したMet.Boxのデータを基に紐解いていきたいと思います。

    2020年と2060年の比較

    現在、断熱性能を決めたり、その住宅で必要な暖冷房能力を計算するために用いられる屋外の気温を利用します。これには年による変動を抑えた何年かの変動を加味した外気温を利用しますが、今回は2020年のデータを用いて、2020年と2060年の大阪の気象データを基に、温度の比較をしていきたいと思います。

    最低気温と最高気温の違い

    住宅で必要な暖冷房能力を計算するには、当然その家の断熱性能(UA値)や日射遮蔽性能などの家の性能と、外部の温度状況などが必要になります。

    特に暖房や冷房に必要な能力を計算する場合は、その建物が建つ場所で考えられる最低気温および最高気温を基に計算します。一番寒い時や一番暑い時に暖冷房が使い物にならないとなると一番困りますよね。

    ですので、大阪における2020年と2060年の最低気温と最高気温を比較して考えてみましょう。SSP(共有社会経済経路)のシナリオにはいくつかあるのですが、今回は『現在の省エネルギー化の努力が実り、気温は上昇するもののその上昇は約1.5~2℃程度に抑えられると言うシナリオSSP1-2.6』と『エネルギー需要が従来のまま増加していった未来を予測するシナリオで、気温の上昇は4℃以上になるとされるシナリオSSP5-8.5』による予想気温を利用します。この気温は時間毎のデータになっています。

    2020年SSP1-2.6 2060年SSP5-8.5 2060年
    最低気温0.2℃1.8℃3.1℃
    最高気温38.0℃37.1℃38.5℃

    この予想からいくと、最高気温はそれほど変わりは無いようなのですが、最低気温が上昇するようです。

    最高気温があまり変わらないという事は、夏場の家の中と外の温度差についてもそれほど大きく変わらないと言えるでしょう。つまり、暖冷房の性能(つまりエアコンの性能や断熱の性能)についてはそれほど大きく変える必要は無いということが言えそうです。

    暖房が必要な日数と冷房が必要な日数

    続いて、暖房が必要な日数と冷房が必要な日数について見ていきましょう。
    通常、暖房は一日の平均外気温が15℃を下回ると暖房機器を利用しだす人が増えると言われています。
    また冷房については、一日の平均外気温が25℃~28℃を超えると冷房をしだす人が増えると言われています。
    そこで、一年の内で一日の平均気温が15℃を下回る日数と28℃を上回る日数を比較してみましょう。

    2020年SSP1-2.6 2060年SSP5-8.5 2060年
    暖房が必要な日数161日133日124日
    冷房が必要な日数45日63日78日
    暖冷房が必要な日数(合計)206日196日202日

    ここでは大きな違いがみられます。2020年では冷房日数は1ヶ月半程度だったのに対して、2060年では最低でも2か月、長い場合は2か月半は冷房が必要なことになります。まさに2024年に経験したような長い夏が2060年ごとには普通になると言っても過言ではなさそうです。

    これとは逆に暖房が必要な日数を比較してみると、元々5か月近く暖房が必要な日数があったのに対して、2060年では4か月から4か月半程度と短くなっています。

    先ほどは最低気温が上昇することが確認出来ましたが、最低気温だけでなく、一日の平均気温も上昇することによって、暖房が必要な日数も減るようです。

    とはいえ、まだまだ暖房の日数の方が長いことが分かります。
    また、暖冷房のどちらかが必要な日数は年間を通すとそれほど変わりが無いようです。

    予想冷暖房費はどう変わるのか?

    仮に2020年と2060年に全く同じ家(当然断熱性能も同じ)に住んでいるとした場合、暖冷房費はどの程度変わるのでしょうか?(ただし、日射については検討していないので、日射量の違いによる影響は除外。)

    この予想を立てるために「暖房度日」「冷房度日」と言う考え方を利用します。
    暖房度日とは、建物を暖めるために必要なエネルギーの量を簡単に表すための指標です。
    計算方法は【冬季に屋内に保っておきたい室温を基準温度】として、この【基準温度から一日の平均気温を引いた温度差(マイナスとなる場合はゼロとする)】を【その日の暖房度日】として、この【一日一日の暖房度日を全て足し合わせたもの】を単純な暖房費に見立てる手法です。(冷房度日も同様です。)

    暖房度日には冬季の目標室温の22℃を基準温度として、冷房度日には夏季の目標室温の28℃を基準温度とします。
    この結果が以下となります。

    2020年SSP1-2.6 2060年SSP5-8.5 2060年
    暖房度日2191度日1919度日(2020年比 87.6%)1678度日(2020年比 76.6%)
    冷房度日96度日146度日(2020年比 152.1%)234度日(2020年比 243.8%)
    暖冷房度日2297度日2065度日(2020年比 89.9%)1912度日(2020年比 83.2%)

    上の表から、将来的には暖房の光熱費が下がり、冷房の光熱費が上がることが予想されます。(あくまで大雑把な予想)また、年間のトータルにおいては寧ろ暖冷房の光熱費は将来下がることが予測されています。

    比較によって分かったこと

    これはある意味意外な予想結果と言えるでしょう。
    温暖化によって気温が上がるため、同じ断熱性能の家に住んでいると、年間の暖冷房費は2020年と比べて下がることになります。

    しかし、ここで注意が必要なのは今回の予想はあくまで2020年との比較であるという事です。
    ですので、2020年がある意味で特殊な年であった場合、例えば、2018年とか2021年と比べると異なる結果になる可能性もあります。

    とはいえ、冷静に考えると単純に暖房する日数が減って、冷房する日数が増えるのは当たり前とも言え、そうなれば光熱費下がるのも当然と言えば、当然でしょう。(通常、現在でも冷房よりも暖房の方が光熱費が掛かります。)

    また、Met.Boxによる将来予測がどこまで正確なのかは誰にも分かりません。当然、専門性の高い知見を基に予想しているので、全くのデタラメである訳はありません。しかし、本当に最高気温が今とあまり変わらないのかと言うと、これも恐らく楽観的な予測なようにも感じます。

    以上のように予測には、不明確な部分が多分にありますが、現在得られるデータで今回予測した結果から推察できることとしては、

    G2程度の断熱性能があれば、将来も困ることは無さそうであるただし、日射の影響を防ぐための遮熱は別途検討する必要がある。

    という事です。
    エアコンについては、今回は湿度について全く検討をしていないので一概には言えませんが、温度だけで言うと、現状必要なエアコンの能力があれば、将来的にもそれほど大きな変化は必要なさそう
    と、予想ができます。(ただし、除湿については別途検討が必要です。)

    今後の家づくりの参考にして下さい。