断熱は性能が高ければ高い方が良いは本当か?
最近では、G3住宅や断熱性能等級7とったような、かなりの高断熱住宅を推奨するような制度ができ、これに伴って、一般の消費者さんにも「高断熱であればあるほどそれが良い」といったような意識が芽生えているように感じます。
断熱性能が高ければ高い方が良いというのは、本当でしょうか?
結論から言うと、20年以上も高断熱住宅の開発や研究に携わってきて、私はこの状況に懸念を抱いています。
高断熱住宅が必要になった理由
そもそも、高断熱住宅が必要になった理由は、それまでの日本の住宅には「断熱が入っていない」ケースが多く、省エネの観点や健康の観点から言っても不適切であったからです。
2025年になって、初めて法律で住宅には断熱を入れなければならないと言う義務が出来ました。
ですので、今までは断熱は必須では無かったのです。
あまりにも断熱に対する配慮が無かったために、キチンとした断熱住宅が必要になったのです。
断熱はどこまでの性能が必要か?
では、断熱はどこまで高くするべきなのでしょうか?
これは見る観点によって多少変わります。
省エネの観点

省エネの観点から言えば、理屈上は断熱性能を高くすればするほど、省エネになることになります。
省エネになれば、光熱費も減ります。
しかし、ここで注意が必要なのは、必要以上の断熱をしようとすると、光熱費でお得になる以上に、最初の建築にお金が掛かることになります。
地球のためにはなれど、家計のためになるかどうかは別問題なのです。
実際にあまりに断熱性能を高くすると、トータルコストで基をとることは難しくなっていきます。
(太陽光発電による売電は別とする。)
冬場の健康の観点
断熱による健康改善効果としては、冬に寒くなりすぎないことが挙げられます。
この効果は抜群です。
ただ、この効果についても冬場に23~25℃程度で過ごせればよいのです。
この観点からいくと、G3や断熱性能等級7といった住宅は明らかにオーバースペックです。
暖房をすることで、冬に過ごしやすくして、健康を損ねないようにする目的だけであれば、滅茶苦茶高い断熱性能は必要ないのです。
夏場の健康の観点
今はあまり問題になっていませんが、今後は地球温暖化のために気温が上がります。更にそれだけでなく、暑い期間が10月頃まで続くなど長期化することも予想されています。下図は、竹中工務店さんが作成した2060年の予想気温です。最も暑くならなかったケースの予想気温なのですが、近年と比べると、暑い期間が長くなっていることが分かります。この図から、2060年には5月の初旬~10月下旬まで28℃を超えてしまうという事が分かります。

この観点からいくと、夏場に屋内での熱中症対策が必須になっていきます。今後は、屋内で常に冷房することが当たり前になっていきますし、大阪などでは既にその状況になりつつあります。
夜間に冷房を切って寝ている人がどれほどいるでしょうか?
あまり知られていませんが、屋内においては仮に室温が28℃でも相対湿度が75%を超えると熱中症の危険水域とされています。また、30℃になると65%でも危険水域です。(下記、屋内用WBGT値参照)

つまり、夏場は割と少し温度が高くなるだけでも熱中症の危険性が出てきてしまいます。
そして、過剰な断熱が問題になるのは、少しの窓からの日射で屋内がオーバーヒート(暑くなりすぎること)することです。
今でも、G3や断熱性能等級7の住宅では春にオーバーヒートをすると言った事例が沢山あります。
これにまして、更に現在より暑くなった気候においては、健康に害を及ぼす危険な状態になることすら、可能性として考えられるのです。
明るい空間という観点
G3や断熱性能等級7といった、かなり高い断熱性能を実現した住宅では、上記のようなオーバーヒートを防ぐために、窓の面積を小さくしたりします。
オーバーヒートの主な要因は、窓ガラスから入って来る直射日光ですので、これを防ぐために窓を小さくします。
しかし、これが問題なのは「日中でも家が暗くなる」という点です。
ガラスが小さいのですから、当然日中の明るさも減り、昼から照明をつけなければならないような生活になりかねません。
そんな生活は果たして快適でしょうか?
まとめ
以上のような様々な観点から考えても、高すぎる断熱性能にメリットは少ないと言えそうです。
特に、日中でも暗くなったり、熱中症の可能性が出たりするのは如何なものでしょうか?
例えば、夏場に留守にしていて、家にペットが居たとします。
何らかの理由で急な停電や不具合などで冷房が止まっていまったらどうなるでしょうか?
ペットは大丈夫でしょうか?
このような可能性は殆どないと思われますが、万一のことも考えておくべきでしょう。
断熱性能は過去のようなプアーなものでは当然だめです。
しかし、高すぎる断熱性能にすることも、よくよく考える必要があるでしょう。