高断熱住宅なら実は北向きの土地でも快適?
土地探しにおいて、敬遠されがちなのが北向きの土地です。
最初は何故か多くの人が、「南向きの明るい土地が良い」と言って、土地探しを始めるのですが、大阪などの都会においてはそれほど南向きの土地は存在しません。
一方で、四国や東北、中国地方においては、土地に余裕があるためほぼほぼ南側にLDKを設置することが分かっています。
北向きの土地が敬遠されがちな理由
さて、では何故土地探しの段階で、北向きの土地が敬遠されがちなのでしょうか。
改めて整理してみると、
- 北側に道路があり、南側には建物があることが多いため、日当たりが悪い
- 庭を設けても、日当たりが悪いため植物が育ちづらい
- 日当たりが悪いため、冬に寒い
- 日当たりが悪いため、部屋が暗くなる
こんな感じでしょうか。
北向きの土地が敬遠されるのは、主に日当たりに起因する要因のようです。
しかし、これらの要因は本当に正しいのでしょうか?
日当たりが悪いため、部屋が暗くなるは誤解
上の4つの理由の内、「日当たりが悪いため部屋が暗くなる」と言うのはこれは大きな誤解があります。
確かに、北側に向けて戸建て住宅を建てた場合、大きな窓は北側に集中しがちです。
このため、太陽の直射日光は当たりづらくなります。
しかし、この直射日光は、実は部屋の中を明るくするためには明るすぎるのです。
直射日光が、もし窓から直接入ってきた場合、明るさは晴天の日で10万ルクスになります。
曇っていても、1000~2000ルクスほどです。
反面、例えば勉強のために机に必要な照度は500ルクス程度とされています。
つまり、南側からの直射日光は非常に眩しく、寧ろ避けるべきなのです。
これは、日中公園などで本を読もうとすると、直射日光に当たってしまうと読めなくなる現象と同じです。
一方で、北側の場合は直射日光は望めませんが、適切に窓を計画することで、「天空光(雲や空中のチリなどによって、反射した光。空の青い部分からの光は殆ど天空光)」や「事物反射光(建物などに反射されて入って来る光)」は取得することが可能です。
大切なことは、部屋に対して窓を適切に計画してやることと、隣接する建物との距離を十分に考慮してやることです。
因みに、今現在私がこれを執筆している部屋は、北と西に窓があるのみで440ルクスとなっています。
もちろん、日中で照明はつけていません。
日当たりが悪いため植物が育たない
こちらについては、本当のことかと思います。
ただし、大阪のような元々土地が限られている場所で、どれだけの土地で植物を育てることが出来るでしょうか?
例え、南向きだったとしても土地の大きさが限られているため、沢山の植物を育てることはあまり向いていません。
もし、沢山の植物を育てたい希望があるのであれば、もう少し土地が豊富な郊外を選ぶ必要があるでしょう。
それだけ、沢山の植物を育てる必要が無いのであれば、北側においても比較的日影に強い植物を計画することによって、植物ゼロは避けられます。とはいえ、日当たりが全くないと植物は枯れてしまうので、朝か夕方のどちらかだけでも日が当たる場所に計画する必要はあります。
良く利用される植物を挙げておきましょう。
リュウノヒゲ
下草としてよく利用される。
マンリョウ
可愛らしい実を成らす。ワンポイントに利用することもお勧め。
ヤツデ
比較的大きな葉っぱのため、目隠しなどに利用される
高断熱住宅なら、北向きの土地でも十分快適
以上のように見ていくと、北側の土地がそれほど悪いと言う決定的なポイントはありません。特に北側に建物を建てると「冬に寒くなる」と言うのは、断熱性能の低い建物のことであって、断熱性能が十分に高い建物では北を向いているからと言って、寒くなるわけではありません。
計算上の違いを確認
例によって計算上の違いを示してみましょう。今回の下のプランで比較します。
UA値は0.41で、G2相当の断熱性能を確保しています。窓は日射取得型を採用していて、窓から太陽の熱が入りやすい状態になっています。これを南向きと北向きに反転させてみました。
周りには建物が無く、その他も全く同じ条件とします。夏場は特に遮熱などは行っていません。
北向きに建てた家と南向きの家との暖房及び冷房の差は以下です。
暖房費 | 北向き | 南向き |
---|---|---|
1月 | 4,603円 | 4,511円 |
2月 | 3,966円 | 3,858円 |
冷房費 | 北向き | 南向き |
---|---|---|
7月 | 6,506円 | 6,497円 |
8月 | 6,834円 | 6,829円 |
あくまで計算上の結果ですが、殆ど冷暖房費に違いはありません。
部屋の中の温度についても日中に2階の部屋で0.5℃程の違いはありますが、それ以外に大きな違いは出てきません。
つまり、窓からの日射取得はパッシブデザイン上は大切な要素ですが、冷暖房費や快適性の面ではこれによる影響は殆ど出てきません。
とはいえ、これは計算上の違いです。
実際には、計算以上の日射取得が存在するのは間違いないので、パッシブデザインをおざなりにするのは望ましくありません。
このプランでは、リビングの反対側面(南向きの場合の北側)には窓が殆どありません。
リビングを北向きに設計した場合は、殆ど日射取得が望めないのですが、それでも温度が低くはならず、暖房費も殆ど変わりません。
つまり、断熱性能が高いことの方が向きにこだわるよりも大切だという事が分かるのです。
北向きの場合の注意点
上の結果を見ると、もう一つのことが分かってきます。
冬場の暖房費よりも、夏場の冷房費の方が高いという事です。
一般的な建物だと通常は冬場の暖房費の方が遥かに高くなります。
しかし、高断熱であるこの建物ではこれが逆転しているのです。
つまり、高断熱な住宅になると冬場を心配するよりも、夏場の暑さを防ぐ方法を考える方が重要なのです。
そして、微妙ではありますが北向きの方が冷房費が高くなっています。
これはどういうことかと言うと、夏場の朝夕で、北側の窓から入って来る直射日光の影響と考えられます。
ですので、建物などで日影になる場合はこれは避けられることとなります。
とは言え、夏場は日射遮蔽がとても重要になることに注意が必要です。
以上のこの結果から言えることは、北と南の違いはそれほど大きくなく、土地選びの段階から気にするような大きな違いでは無いという事です。
もし、土地選びの段階で南向きの土地しかないと考えているのであれば、もう一度再考してみては如何でしょうか。