建物の一生のCO2ホールライフカーボンを計算する未来がやってくる
2025年11月、IBEC(一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構)から、J-CAT戸建てと言うツールが公開されました。このツールでは、住宅におけるホールライフカーボンと言うものが計算できるようになっていて、近い将来にはこのツールを積極的に利用していくようになる世の中になると思われます。
今日はそんな未来に利用されることになる、ホールライフカーボンという考え方の解説と、未来像についてのお話です。
<参考>建築物ホールライフカーボン算定ツール(J-CAT®)
これから求められる更なる省エネ

これまでの住宅の省エネと言えば、「住んでから利用されるエネルギー(=光熱費)」が主役でした。現在のZEHや省エネルギー等級などは、この考え方から作られています。
ただ、建物の一生を考えたとき、実際にはこれに加えて、住宅を建設する時・リフォームなどで修理する時・最終的に建物を壊す時にもCO2が排出されます。この、建物のライフサイクル全体で排出される二酸化炭素の量を考えるのが、ホールライフカーボン(Whole Life Carbon)と言う考え方です。
ここ数年、世界的にこの考え方が急速に広がっています。理由はシンプルで、断熱や省エネが進むほど、相対的に「建てる時のCO₂」が目立ってくるからです。国交省においても、欧米を中心にライフサイクル全体での削減の動きが始まっていることが議論されるようになってきています。
世界での取り組み事例
住宅でない建物での取り組み
住宅でない建物では制度化が早くなっています。特にEUではこの取り組みが顕著で、改正EPBDというEUでの制度が2024年5月に発効され、この内容を基に各国の法律が作られているといった現状があります。
ホールライフの算定・開示を“段階的に”進める考え方が整理されており、まず大きな建物から始め、やがて対象を広げていく計画になっています。
特に踏み込んでいるのがデンマークです。新築の計画段階で建物の一生に排出されるCO2を算出し、一定規模以上の建物では年あたりのCO2の排出量に上限値を設け、この値を段階的に厳しくしていく運用が始まっています。
ロンドンでは都市計画基づき、開発提案にホールライフカーボン算定と削減の説明を求めるガイダンスが整備されています。
カナダ・バンクーバーでも大規模建築を中心に、報告や要求水準の導入が検討されています。
このように、ホールライフカーボンの取り組みは世界的な取り組みへと変わってきています。
住宅での取り組み
住宅は、広く・数が多い分、いきなり厳しい規制になりにくいのですが、先行国においては確実に制度化が進んでいます。
代表例はフランスのRE2020です。建物の二酸化炭素排出量の抑制を段階的に強化していく計画が示され、2022→2025→2028→2031…のよう年をおって厳しくすることになっています。
EUは、最終的には住宅を含む新築全体を対象に、ホールライフカーボンの扱いを制度に組み込んでいく方向です。
住宅は今すぐ全建物が計算する時代ではないものの、仕組みが整った国から順番に制度化されていく時代に入っています。
日本における取組

住宅以外の建物に関する取り組み
国交省は、建築物LCA(ライフサイクルでの算定・評価)を促す制度を2028年度を目途に開始する方針を示し、そのための検討会も設置する予定としています。
ゼロカーボンビル推進会議での検討を踏まえ、ホールライフカーボンを算定するためのツールとして、J-CAT正式版を2024年10月31日に公開ししました。そして、官庁施設では2025年度から、一部新築の設計段階でライフサイクルカーボン算定を試行し、J-CATを活用しています。
日本の住宅以外の建物では「まず公共で試す→制度化(2028)→民間にも広がる」という、手順を踏むことになっています。ここでJ-CATは、将来の制度運用に耐える共通の物差しとして整備されるという位置づけです。
住宅に関する取り組みの方向性
住宅は、いきなり「全建物においてホールライフカーボン算定しないといけない」とはなりません。ただし、住宅以外の建物で制度が整えば、住宅にも波及するものと考えられます。この場合、以下の流れになると予想されます。
1.大手の住宅会社が算定・開示を始める
2.補助制度・評価制度において、算定や表示を優遇条件にする
3.「説明できる会社」が信頼される
この流れの中で、IBECはJ-CAT-戸建 試行版を2025年11月に公開し、戸建住宅のホールライフカーボン算定において、設計から竣工までの標準的な利用を想定した「標準算定法」を用意しています。
また、工事内訳書から主要な範囲の資材数量を入力することで、手間を減らしつつ一定の精度を確保するように設計されており、将来の一般の工務店における導入を見据えた計算方式となっています。
これからの家づくりをする一般ユーザーにとっての現実的な意味
現時点で施主がこの計算ツールを利用して、材料を入れ替えたりして、細かく比較するのは現実的ではありません。
しかし、将来的には住宅会社が「あなたの住宅の生涯のCO2排出量」を提示するのが普通になることが予想され、これが企業を選ぶ基準となるでしょう。この場合、説明責任に対してキチンと対応できる会社が選ばれる時代が、やがてやってきます。
そのような取り組みを先進的に行っている企業は、長く生き残る企業と考えても差支えはないでしょう。



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太田(健康・高断熱住宅専門家)