樹脂サッシ・樹脂窓の断熱性能について徹底解説
樹脂サッシ・樹脂窓とは何か?
近年、樹脂サッシや樹脂窓と言われる窓が増えてきました。
今回はこの樹脂(=プラスチック)で出来た窓についての徹底解説を行いたいと思います。
樹脂サッシ・樹脂窓の概要
樹脂サッシあるいは、樹脂窓と言われる窓は英語では「Plastic Window」と言われていて、要はプラスチックで出来ている窓のことを言います。従来の窓では、窓の周りのサッシと呼ばれる部分がアルミで出来ていることが殆どでした。しかし、これは世界的な流行とは異なっていて、世界的には「Plastic Window」の方が普及しています。
近年では、徐々に樹脂サッシ・樹脂窓の普及が進み、新築住宅の4件に1件はこの樹脂窓が取り付けられるまでになってきました。
今後もこの普及は進むものとみられ、新築時には必ずと言って良いほど樹脂サッシ・樹脂窓が取り付けられるようになると予想されます。
樹脂サッシ・樹脂窓の特性とその断熱性
では、何故この樹脂サッシ・樹脂窓が増えてきているのでしょうか?
これはとてもシンプルな理由なのですが、樹脂サッシ・樹脂窓がとても断熱性能の高い窓で、熱を通しにくいからです。
このブログでも何回か登場している上の図は、2000年頃の一般的な住宅を対象に熱の出入りがどの程度あるのかをシミュレーションしたものです。
この当時(平成12年頃)の窓は、当然アルミの窓が多く、家全体の表面積に対して窓の面積は小さいのに、熱の出入りは約半分も行われているのでした。
つまり、以前よく利用されていたアルミの窓だと熱の出入りが相当激しくなるのです。
この対策として、アルミの窓を使うのではなく、樹脂製の断熱性能の高い窓を利用するようになってきたのが近年の流れです。
樹脂サッシ・樹脂窓の断熱性能
樹脂サッシ・樹脂窓の断熱効果
樹脂サッシや樹脂窓の断熱性能はUW値という値で表現されます。
これは、数値が小さければ小さいほど優れた断熱性能であることを示します。
例えば、樹脂サッシ専門のこちらのメーカーさんでは、同じ樹脂サッシでもいくつかの種類を用意しています。【樹脂サッシ専門メーカー「エクセルシャノン」】
いくつかの種類がありますが、一番大きな違いとしては窓のガラスが2重なのか3重なのかと言った違いです。
こちらのメーカーさんの数値を参考にしてみると・
ペアガラス(2重ガラス・アルゴンガス)引き違い窓:UA値1.5
トリプルガラス(3重ガラス・アルゴンガス)引き違い窓:UA値1.25
と、ガラスの枚数の違いによって、15%程度熱の通る量が変わることが分かります。
他のサッシ材料(例:アルミサッシ、アルミ樹脂サッシ)との断熱性能比較
これに対して、以前よく利用されたアルミサッシや、比較的最近多くなっているアルミと樹脂の複合サッシではどうでしょうか?国立研究開発法人建築研究所の数値を参考に代表的なUW値を以下に挙げます。
アルミサッシ(単板ガラス(ガラスが一枚の意味))引き違い:UA値6.51
樹脂アルミ複合サッシ・ペアガラス(2重ガラス・アルゴンガス)引き違い:UA値2.33
この数値を比較すると明らかなように、かなりの断熱性能の違いがあるのです。
アルミサッシと比較すると、樹脂サッシのペアガラスでも熱の出入りが4分の1以下となります。
樹脂サッシ・樹脂窓のメリットとデメリット
断熱性能がかなり良いことが分かりました。今度は断熱性能が良くなるとどのようなメリットがあるのかを考えています。
エネルギー効率の改善
先ほど、アルミサッシとの断熱性能の比較をしました。
再び2000年頃の住宅を基準に今後は家全体のエネルギー効率の改善について検討します。
アルミサッシを使った住宅の場合、家の中から半分以上の熱の出入りがあありました。これをペアガラスの樹脂サッシに変えると熱の出入りは、4分の1以下となります。そうすると家全体での窓からの熱の出入りは2割弱にまで抑えられることになります。結果、家全体の熱の出入りは、3分の2以下に抑えられることになるのです。
熱の出入りが抑えられるという事は、冬場の光熱費がそのまま3分の2以下になることになります。
これだけのエネルギー改善効果が窓だけであるのです。
快適性の観点から
窓の断熱性が改善すると、暖房では実現できない快適性が得られます。
例えば、低断熱な窓の場合、上の図の左のように折角暖房で暖められた空気も窓の前で冷やされてしまいます。この冷やされた空気は重くなるため、コールドドラフトとなって床面付近への気流となります。冬場に窓の近くに行くと足元が寒いのはこのコールドドラフトが原因です。そしてこのコールドドラフトが続くと、やがて部屋に上下の温度差が出来てしまいます。冬場に暖房を入れると足元が寒いのに頭はボーっとするといった経験がある方もいるかもしれません。これはこの現象が原因なのです。
これはいくら暖房しようとも避けることは出来ません。しかし、窓を高断熱にするとコールドドラフト現象が発生し難い状況となります。そして、結果的に部屋の上下温度差を防ぐことにも役立つのです。
メンテナンスの観点から
メンテナンスの観点から言うと、最も大きなメリットは
「結露が発生しにくい」
ことです。アルミの窓だと冬場、毎朝のようにサッシの周りに大量の結露が発生したりします。
毎日拭き掃除している場合もあるでしょうし、気づかずにカビを発生させているケースもあるかもしれません。
樹脂サッシや樹脂窓ではこのようなことが非常に発生し難くなります(全く無くなる訳ではありません。)この手間が省けることや、カビの発生、結露による腐りの発生の心配が無くなることは非常に大きなメリットと言えます。
耐久性の観点から
プラスチックの窓と言われると、耐久性の観点から疑問に思う人も多いようです。
プラスチックは一般的に紫外線に弱く、これによって劣化するのですが、このイメージが強いようです。
しかし、一般的な樹脂サッシは表面がコーティングされています。このコーティングされた樹脂サッシであれば、沖縄の日差しの強い炎天下で放置した実験においても30年問題が無かったという実績があります。他にも40年実際に使われた実績があるため、簡単に劣化はしないようになっています。
※参考:ヨーロッパでは60年以上の実績があります。
コストの観点から(初期投資と維持コスト)
建築時にかかるコストは当然、アルミサッシやアルミ樹脂の複合サッシに比べると今のところ高くなっています。しかし、光熱費の削減や家の中が温暖になることによる医療費削減効果もあり、実際には20~30年経った後に基が取れるという試算もあります。
デザインの観点から
樹脂サッシの場合、アルミのサッシに比べると枠が太くなります。
このため、ガラスの面積が小さくなり、窓から見える外部の景色や内観の印象が変わってしまいます。
最近では、この太さをなるべく小さくしたタイプのものも出てきており、これらを工夫して計画に含めることが一つのデザイン的なポイントとなります。
樹脂サッシ・樹脂窓の計画方法
窓の配置のポイント
窓の配置の仕方としては、窓の断熱性能がいくら高くなったからと言って、壁に比べると断熱性能は低くなります。そのため、窓が不要な場所になるべく設置しないといった工夫をすることも大事になります。
例えば、トイレへの窓の配置は本当に必要でしょうか?マンションなどではトイレの窓が設置されていないケースが多いのですが、これで困った経験はあるでしょうか?
また、納戸などの収納に窓を設置するケースなどもありますが、こちらも本当に必要でしょうか?結局、納戸を使用する時には照明を点ける場合が多く、納戸内も最近の住宅では機械で換気されていることが多いため、それほど必要性があるわけではありません。
窓の配置については、パッシブ設計の観点から検討をする必要があります。
こちらの記事も参考にしてみて下さい。
窓の気密性能も意識する
実際には窓においても開き方によって気密性能が異なります。
上の写真の様に横にスライドさせて開ける窓を引き違い窓と言います。
この窓、よく利用される窓なのですが実際には隙間が非常に多い窓です。どうしてもすれ違いの部分においては隙間が出来てしまうからです。ですので、このような窓は使わざるを得ない場所だけで利用することをお薦めします。
上の写真のようなドアの様に開く窓を縦すべり窓と言います。
この窓であれば、開き方の構造上、気密がばっちり取れます。
このため、極力FIX窓と呼ばれる開かない窓や、縦すべり、横すべり窓によって計画することで家全体の気密性能を向上させることが出来るのです。
窓ガラスの選び方
3重の窓ガラスの場合、役割分担することが可能です。大きく2種類あり、「日射取得型」と「日射遮蔽型」があります。南面等で日射を多く取得したい窓には日射取得型の窓ガラス、東西のなるべく日射を防ぎたい窓は日射遮蔽型の窓ガラスとすることがお勧めです。
まとめ:樹脂サッシ・樹脂窓を選ぶメリット
ここまで色々なメリットやデメリットを示してきましたが、結局のところ纏めると大きく2点以下のような利点があります。これからの新築にあたっては樹脂サッシ、樹脂窓は必須になるので是非検討してみて下さい。
- 冬場の寒さや夏の暑さ、生活環境の改善
- 省エネルギーとトータルコストの削減