新たな省エネ制度が開始されます
省エネルギーの最高基準が変わります。
これまで新築住宅の省エネ性能を示す「一次エネルギー消費量等級」は、等級6(標準的な家に比べておおむね20%削減)が最高ランクでした。これが今までは「ZEH水準」とされてきました。
ところが、2025年12月1日に住宅性能表示基準の改正告示が施行され、新しく等級7(約30%削減)、等級8(約35%削減)が設けられることとなりました。
一方で、国の新しい省エネ政策として「GX ZEH(ジーエックス・ゼッチ)」が2027年4月から本格的に始まる予定です。GX ZEHでは、断熱等性能等級6(Heat20 G2)を満たし、再エネを除いた一次エネルギー消費量を基準から35%以上削減することが条件とされており、これは一次エネルギー消費量等級8(BEI≦0.65)に相当する水準です。
ここでは、制度改正の背景から、等級7・8が意味するもの、そしてこれから家を建てる人にどんな影響があるのかをみていきたいと思います。
住宅性能表示制度と一次エネルギー消費量等級とは?

住宅性能表示制度は、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)にもとづき、構造の耐震性や断熱性、省エネ性能など、住宅に求められる性能を10項目に分けて「等級」で分かりやすく示す仕組みです。評価は国土交通大臣に登録された第三者機関が行うため、企業や工務店ごとにバラバラな表現にならず、公平に比較できるのが特徴です。
そのうち今回新しく等級が設けられたのが、「一次エネルギー消費量等級」です。これは、暖房・冷房・換気・給湯・照明に使うエネルギーを、石油や天然ガスなどの「一次エネルギー」に換算して合計し、その消費する量を評価する指標です。
基準となる「標準的な家」のエネルギー消費量を100としたときに、自分の家がどれくらい削減できているかを数字で表します。設計上の一次エネルギー消費量を、基準となる一次エネルギー消費量で割った値を「BEI(Building Energy Index)」と呼び、BEIが1.0なら基準と同じ、0.8なら20%削減となります。
これまでは最高等級6=「ZEH水準」の家だった
一次エネルギー消費量等級6は、BEI≦0.8、つまり基準に対しておおむね20%以上一次エネルギーを減らした住宅が対象です。これは、太陽光発電などの創エネ分を除いた「省エネだけ」の削減率で、ZEHの省エネ要件と同じ水準とされてきました。
ここ数年で高断熱住宅や省エネ設備が急速に普及した結果、戸建住宅では住宅性能表示を取得した物件のうち、すでに8割前後が等級6(ZEH水準)を満たしているとされています。つまり、「等級6=トップランナー」というよりは、「新築なら今や当たり前」に近いレベルになりつつある、というのが現状です。
新設される等級7・等級8はどんなレベル?
今回の改正では、これまでのZEH水準をさらに上回る省エネ性能として、等級7と等級8が新設されます。評価の軸になるBEIは次のように設定されています。
- 等級7:BEI≦0.70(省エネ基準からおおむね30%削減)
- 等級8:BEI≦0.65(省エネ基準からおおむね35%削減)
いずれも、太陽光発電等による創エネ分を差し引かず、「建物と設備の省エネ努力だけ」でここまでエネルギー消費を減らしていることが条件です。太陽光発電を載せている場合には、オプションとして「太陽光でどれくらい一次エネルギーが減っているか(削減率%)」も一緒に表示できるようになります。
等級8クラスになると、カタログ上で高効率エアコン、エコキュートやエネファームなどの高効率給湯器、全熱交換型の24時間換気、節湯水栓、高断熱浴槽、LED照明といった「省エネ設備フル装備」がほぼ前提になります。加えて、家全体の断熱性能もある程度以上の水準(断熱等性能等級6、Heat20G2レベル)とする必要があります。
GX ZEHと省エネルギー等級8・断熱等級6の関係

国のエネルギー・温暖化対策のなかで、これからの住宅のキーワードになるのが「GX志向型住宅」と「GX ZEH」です。GXはグリーントランスフォーメーション(Green Transformation)の略で、住宅も含めた社会全体を脱炭素型へシフトさせていこう、という方針を指します。
2027年4月から始まるGX ZEHでは、戸建住宅の定量的な条件として、次のような基準が示されています。
- 外皮性能:断熱等性能等級6相当のUA値・ηAC値を満たすこと
- 省エネ性能:再エネを除いた一次エネルギー消費量を、基準から35%以上削減すること
再エネを除いた35%削減というのは、BEIで言えば0.65以下に相当します。一次エネルギー消費量等級8の基準(BEI≦0.65)とほぼ同じ水準であり、「断熱等級6+一次エネ等級8」がGX ZEHの基本ラインになる、とイメージしておくと分かりやすいでしょう。
これまでのZEHが「断熱等級5以上+一次エネ20%削減(等級6)」だったのに対して、GX ZEHでは断熱も省エネも一段階ステップアップした水準が求められる、という位置づけです。
あなたの家づくりにとって何が変わるのか?
では、等級7・8やGX ZEHが始まることで、一般の家づくりはどう変わるのでしょうか。ポイントを3つに整理してみます。
① 「省エネ基準に適合」だけでは物足りない時代に
2025年4月からは、新築住宅で省エネ基準への適合が原則義務化されています。ここに今回の等級7・8が加わることで、「とりあえず基準クリア」から一歩進んで、「どこまで省エネ性能を高めるか」が、住宅の価値を分けるポイントになっていきます。
省エネ性能ラベルや住宅性能評価書を見るときも、「等級6だから安心」で終わらせるのではなく、「等級7なのか8なのか」「断熱等級はいくつか」という視点で比較することが重要になります。
② 光熱費だけでなく、快適性やレジリエンスにも直結
一次エネルギー消費量を大きく減らすためには、断熱・気密性能の向上と、高効率設備の導入が欠かせません。これは単に省エネ・光熱費削減につながるだけでなく、夏も冬も温度ムラの少ない快適な室内環境や、停電時にもエネルギーを確保しやすい「レジリエンスの高い住まい」にも直結します。
とくにGX ZEHレベルの家では、断熱等級6(Heat20のG2)相当の外皮性能が求められるため、冬の寒さや夏の暑さがかなりやわらぎます。長く住むことを考えると、初期投資をしてでも上位等級を目指す価値は大きいと言えるでしょう。
③ 補助金・減税・ローン優遇の条件も「GX ZEH基準」にシフト
すでにZEHでは補助金や住宅ローン減税の優遇措置が用意されてきましたが、今後はGX ZEHの水準を満たす住宅が、より手厚い支援の対象になっていくと考えられます。
逆に言えば、「最低基準ギリギリの家」は、各種支援策の対象から外れやすくなり、将来の資産価値の面でも不利になる可能性があります。
土地探しや間取り検討と同じくらい、「どの断熱等級・一次エネ等級を目指すのか」を早い段階で決めておくことが、これからの家づくりの重要な戦略になります。
これから家を建てる人へのチェックポイント

最後に、これから家づくりを考えている方に向けて、簡単なチェックポイントをまとめます。
- 断熱性能は少なくとも等級6を目標に
将来の制度変更やGX ZEHの動向を考えると、断熱等級5ではなく「等級6」をベースラインにするのが無難です。 - 一次エネルギー消費量等級は7か8を検討
省エネ基準クリア(等級4)やZEH水準(等級6)で満足せず、可能であれば等級7、理想は等級8を狙うつもりで、設備仕様を検討してみましょう。 - 太陽光発電の導入有無と「創エネ分」の扱いを確認
等級7・8自体は再エネを除いた省エネ性能で判定されますが、太陽光による削減率も表示できるようになります。創エネを含めたトータルのエネルギーバランスも、あわせて確認すると安心です。 - 性能表示のラベルや評価書を必ずチェック
住宅性能表示制度の評価書やBELSといった省エネ性能ラベルで、実際の等級を確認しましょう。「断熱等級6・一次エネ等級8」といった組み合わせを、具体的な目標としておくと話がスムーズです。
おわりに
等級7・8の創設とGX ZEHの登場は、「省エネ住宅は一部のこだわり派のもの」という時代から、「高性能な省エネ住宅が当たり前」という時代への大きな転換点と言えます。せっかく新築するなら、数十年先の基準を見据えた家づくりをしておく方が、光熱費にも健康にも、お財布にもやさしい選択です。
これから住宅を検討される方は、ぜひ「一次エネルギー消費量等級」と「断熱等性能等級」の数字に注目して、未来に強い住まいづくりを進めてみてください。



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太田(健康・高断熱住宅専門家)