日除けシェードの費用対効果を検証
パッシブデザインの一つの手法に日射遮蔽があります。
日射遮蔽とは、窓から入って来る日射を防ぐことを指すのですが、夏場はこれを行うか行わないかによって、部屋の中の暑さが変わります。
日射遮蔽の難しい部分としては夏場は遮蔽によって日射を遮れば良いのですが、冬場は日射を採り入れて暖房を減らすことを行いたいわけです。
つまり、何か固定した物で遮蔽すると、よっぽど上手く設計しなければ、必要な時期に日影になって暖房費がかさ張ることにもなりかねないのです。
では、上手く日射を防ぐためにはどうしてやれば良いでしょうか?
これを上手く行う方法の一つとして、日除けシェードがあります。
日除けシェードとは、下の写真のようなものです。
窓の外側に設ける日除けなので、その効果は高いです。
このシェードの効果がどの程度のものなのかを今日は見ていきたいと思います。
日射遮蔽の手段
日射遮蔽の手段としては幾通りかの方法があります。ここでは、代表的な手法について挙げておきます。
- 日除けシェードで窓を覆う
- バルコニーや屋根の庇によって日影を作る
- 樹木などで日影をつくる
- 近隣の建物から伸びる影を利用する
と、言ったところが代表的な日射遮蔽の手段です。
これだけ色々な手段があると、どの方法を採り入れるべきか迷ってしまいます。
恐らく、一般的な建築士においてもその方法を的確に使い分けることは出来ないでしょう。
なので、今回はこれを的確に使い分ける手段の一つとして、「冷暖房費」に焦点をあてて比べてみようと思います。
もちろん、あなたのプランにおいて比べることが一番最適ですが、一つの目安として知っておくと便利です。
各日射遮蔽による費用対効果
まずは、比べるにあたってベースとなるプランを用意します。
いつものように下記の図面にて比べる事とします。
仕様はkicori basicとします。【kicori basic の仕様を知りたい場合はコチラ】
今回は窓はトリプルガラスの日射取得型窓の固定とします。(本来はここを変えると、効果が変わりますが、その点についてはまた別で考えることとします。)
また、冷暖房の方法としては、「暖房はLDKだけ24時間暖房」「冷房はLDKと個室を24時間冷房」とします。
また、シェードは夏のみの使用として日中は閉めた状態で夜間は開けることにします。
窓にシェードを取り付ける場合の費用対効果
続いて、今回検討する仕様を以下に列記します。
- 窓に何も対策をしない(近隣の建物なし)
- 南面の窓のみシェードを取り付ける(近隣の建物なし)
- 東西面の窓のみシェードを取り付ける(近隣の建物なし)
- 東西南面の窓にシェードを取り付ける(近隣の建物なし)
- 東西2.7m離れた位置に隣の家が建っている場合
- 東西南面の窓にシェードを取り付ける。東西2.7mの場所に隣家がある。
以上の6種類を比べたいと思います。
この時の1年の冷暖房費の結果が以下です。
更に何もしなかった場合と比べて、40年間住み続けた場合の暖房費の差を記載します。
ただし、5と6の費用差は、「5-6」の40年分とします。
仕様 | 冷房費(円) | 暖房費(円) | 冷暖房費(円) | 40年間の冷暖房費用差 |
---|---|---|---|---|
1. 何もなし | 23,990 | 16,172 | 40,162 | – |
2. 南窓 | 21,677 | 16,208 | 37,885 | 91,080 |
3. 東西窓 | 22,123 | 16,497 | 38,320 | 73,680 |
4. 東西南 | 19,704 | 16,235 | 35,939 | 168,920 |
5. 隣家のみ | 21,938 | 16,716 | 38,654 | – |
6. 東西南/隣家 | 18,612 | 16,777 | 35,389 | 130,600 |
と、なります。
如何でしょうか?冬はシェードを開けたままにしますので、暖房費は殆ど変わりません。
これに比べて、冷房費はそれなりに違いがでてきます。
2,3を比べると南側の方が効果があるようです。
これは、南側には大きな窓5枚があり、全部で6枚(8.091㎡)の窓があります。
これに比べて東西は、大きな窓3枚、小さな窓2枚の計5枚(5.787㎡)です。
窓の大きさとしては、南側が1.4倍ほど大きいため、本来であれば東西からの日射の影響の方が大きいはずですがこれを上回る影響があるようです。
ここから、窓1枚・1万5千円~1万6千円程度であれば元が取れそうです。
(※ただし、ローンの金利や電気代の将来の値上げは見込んでいません。)
シェードには窓に直接設置するタイプや、ホームセンターなどで売っている簡易なシェードもあるのでこれらを上手く組み合わせると良いでしょう。
また、東西に隣家がある場合を見てみましょう。大阪の場合は殆どがこのケースに当てはまるでしょう。
この場合、5と6を比較すると13万円程の違いがでています。
ですので、窓1枚で1万2千円ほどであれば元が取れるようです。
この期間、快適に過ごせることを加味すれば金額以上の得があると思われます。
バルコニーや庇による日除け効果
今度はバルコニーや庇による日除け効果です。これらで日射遮蔽する場合は最適な長さにする必要があります。夏はなるべく日影を長くして、冬はなるべく日射が入って来るように設計してやる必要があります。
これを上手く設計した場合の比較をしてやります。
比較する項目は以下です。
- 何も対策なし
- 南面2階(奥行き910)にバルコニーを最適に設けた場合
- 南面2階(奥行き1365)にバルコニーを最適に設けた場合
- 南面屋根の庇長さを長くした場合
- 南面にバルコニーと庇を設けた場合
- 南面のバルコニーと庇に袖壁がある場合
以上の5種類を比べます。
この結果が以下です。
仕様 | 冷房費 | 暖房費 | 冷暖房費 | 40年間の冷暖房費用差 |
---|---|---|---|---|
1. 何もなし | 23,990 | 16,172 | 40,162 | – |
2. バルコニーのみ D910 | 21,367 | 16,730 | 38,097 | 82,600 |
3. バルコニーのみ D1365 | 21,165 | 16,984 | 38149 | 80,520 |
4. 庇のみ長く | 23,392 | 16,364 | 39,756 | 16,240 |
5. バルコニーと庇 | 20,700 | 16,943 | 37,643 | 100,760 |
6. バルコニー庇と袖壁 | 20,615 | 17,003 | 37,618 | 101,760 |
まずは、2と3に注目して下さい。
うまい具合に長さを設定すると、それなりの効果が表れます。しかし、逆に長くしすぎると日影の時間が長くなりすぎて、今度は暖房費が上がってまいます。
使用上、問題が無いのであれば最適な長さにすることをお薦めします。
また、1と4を比べると庇も通常の長さよりも少し長くすると冷房費の減りが暖房費の増分より大きくなり僅かですが得をします。ただし、この場合の差は本当に僅かですので実際にはそれほど大きな差は無いと思われます。
注目は5よ6の比較です。最近では袖壁を設けると、その分東西からの日射を遮れるために大きな効果があるように言われる場合があります。しかし、計算上は殆ど差がありません。袖壁で大きな効果を得ようとする場合は、袖壁と窓までの距離も大きな要因になりますので、注意が必要です。